作業療法士は心身に障害のある方がその人らしい生活を送るために治療・指導・援助を行う職種です。

作業療法士の行う治療は、病気や怪我の症状を、薬を用いて治すのではありません。生活を送るために必要な心身機能や活動機能の改善・獲得を作業や活動を用いて促すのです。

作業療法士が行なう治療について詳しく説明していきます。

作業療法士は治療をする?

医師が病気や怪我をした人に薬の処方や手術などの治療を行い、病気や怪我を治すことはもはや常識として知られています。では、作業療法士は治療を行うのでしょうか?作業療法の定義では治療という言葉が用いられています。作業療法士と治療について詳しくみていきましょう。

作業療法の定義による治療

日本作業療法士協会による作業療法の定義は「作業療法とは、身体又は精神に障害のある者、またはそれが予測される者に対し、その主体的な生活の獲得を図るため、諸機能の回復、維持及び開発を促す作業活動を用いて、治療、指導及び援助を行うことをいう(昭和60 年6 月13 日 社団法人日本作業療法士協会第20 回総会時承認)」(出典:作業療法ガイドライン(2012年版))とあります。

作業療法士は身体または精神に障害のある方や障害が予測される方に対して治療・指導・援助を行うと記述があります。治療とは「病気や怪我を治す手当て」の意味があり、病気や怪我を治すのは医師の仕事と一般的には認識されているかと思います。しかし、治療には作業療法士も関わっているのです。

作業療法士が治療に関わる時期

作業療法士が対象者と関わる時期は予防期・急性期・回復期・生活期・終末期に分けられます。

予防期ではこれから障害が予測される方に対してのアプローチを行うので、まだ障害による機能低下や活動機能低下がみられない時期です。「治療=治す」というよりは、予防のための指導や導入が多い時期となります。

急性期・回復期では、生活上必要な機能の回復や活動能力の獲得のために積極的にアプローチを行う時期であり、「治療」という表現の関わりが多くなる時期です。

生活期・終末期では今ある能力をどう活かすか、どのように生きるかという「支援・援助」という表現の関わりが多くなる時期といえます。

作業療法士と治療

「治療=治す」という意味の治療では、作業療法士は「障害された心身の機能回復を図ること」や「障害された活動機能の獲得を図ること」の限られた関わりのみに捉えられがちです。しかし、作業療法士は「その人らしい人生を対象者の方とともにみつける」ための治療・指導・援助を行うと捉えると、作業療法士が治療するのは機能回復だけに限られたものではありません。

「医師は患者の命を背負うけれども、作業療法士は患者の人生を背負う。」これは私が学生時代に受けた授業の中で心に残っている言葉なのですが、作業療法士は対象者の方の人生を導く仕事だと思います。どんな風に生活を送りたいのか、どのように生きていきたいのかということを対象者から引き出し、人生をより活き活きとしたものとするための治療・指導・援助を行うのが作業療法士です。

作業療法士は人生を治療するとまで言うと大げさすぎるかもしれませんが、作業療法士が対象者の方に関わる働きかけ自体が治療へと結びつき、その人自身をサポートします。医師が病気や怪我の症状を回復し、全身状態を安定させるための治療を行うのであれば、作業療法士はその人らしい人生を生きるための機能と活動を回復させる治療を行うと言えるかもしれません。

作業療法士が治療の対象にするのはどんな人?

作業療法士は身体障害分野、精神障害分野、発達障害分野、老年期障害分野と大きく分かれています。それぞれの分野で対象となる疾患に偏りはありますが、作業療法士が関わる対象は作業療法が必要な全ての人といえるでしょう。作業療法士の治療の対象について詳しくみていきましょう。

作業療法士が対象とする分野

作業療法士は赤ちゃんから高齢者までの幅広い年齢層と身体障害・精神障害・認知障害を呈する様々な疾患を持つ対象者と関わります。

小児

小児では脳性麻痺やダウン症候群、分娩麻痺、二部脊椎、水頭症、知的障害、行為障害、注意欠陥・多動障害、情緒障害などがあげられます。

成人

成人では、脳卒中(脳梗塞・脳出血)、頭部外傷、パーキンソン病などの神経難病、脊椎損傷、骨折、切断、悪性腫瘍、糖尿病、統合失調症、うつ病、神経症、心身症、てんかん、アルコール依存症などがあげられます。

高齢者

高齢者では、脳卒中や骨折、廃用性症候群、変形性関節症、関節リウマチ、認知症、老年期うつ病などがあげられます。

例として挙げたのは、作業療法士が関わることのわりと多い疾患の一部の例です。予防的な作業療法の関わりでは、加齢やストレスなどで心身機能の低下がみられやすい人も対象となります。現在疾患を持つ人に限られず、作業療法を必要とするすべての人が作業療法士の治療の対象となります。

作業療法士が行う治療方法

作業療法士はどのような治療を行うのでしょうか。作業療法士は作業や活動が持つ治療的な効果を用いて対象者の方の支援を行います。作業療法士が治療の手段として用いる作業や活動について詳しくみていきましょう。

感覚・運動機能訓練

関節可動域訓練や筋力トレーニング、トランポリンや滑り台・ボールプールなどの遊具や、ペグボードやサンディングボードなどを用いた活動、体操、スポーツなどでの活動を通して基本的な心身機能の改善・獲得を図ります。

日常生活活動(ADL)・手段的日常生活動(IADL)訓練

起居・移動・食事・排泄・更衣・入浴などの動作、物品や道具の操作、洗濯・料理・掃除などの家事動作、交通機関の利用、金銭管理、コミュニケーションなどの練習を通して生活に必要な応用的能力の改善・獲得を図ります。

創作活動

園芸、音楽、陶芸、絵画、工作、手芸、書道、革細工、籐細工、編み物、囲碁・将棋、ボードゲーム・カードゲーム、レクリエーション、俳句、貼り絵・塗り絵などの創作活動を通して応用的な能力や社会的な能力の改善を図ります。

その他

治療と表現されることはありませんが、作業療法士は作業や活動を用いる以外にも自助具や福祉用具の作成や提供・助言や、住宅改修などの生活環境の整備や調整など、また、対象者の方の興味や関心の確認や、仕事や生活サイクルについての聴き取りを行い、今後のライフスタイルの再構築のための助言や援助も行います。

まとめ

対象者の方の障害された機能の改善や獲得、回復を促すことを治療と呼ぶのであれば、作業療法士は治療を行う職種と言えるでしょう。

治療という言葉を使うにあたって、作業療法士は「その人らしい生活を対象者の方とともに考え、つくっていく」職種であるため、「作業療法士が治す」のではなく、対象者の方と「ともに治療を行う」という意味で「治療」という言葉を受け止めてほしいと思います。

作業療法士の関わり自体が対象者の方の気づきを促し、その人らしい生活へと導くための治療を意識した関わりであることが大切であるといえるでしょう。

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記事の執筆者と監修者

執筆者

井ノ口 征幸(作業療法士)

3年制専門学校の作業療法学科卒業後、作業療法士免許取得。
医療法人光洋会 赤間病院勤務、JICA青年海外協力隊参加を経て、医療法人八女発心会 専門学校久留米リハビリテーション学院の作業療法学科学科長に就任する。

主な経歴・資格 作業療法士免許
臨床実習指導者認定資格
所属 医療法人八女発心会 専門学校 久留米リハビリテーション学院

執筆者

大坪 健一(理学療法士)

福岡大学 経済学部卒業後、一般企業勤務。
その後、4年制専門学校の理学療法学科卒業後、理学療法士免許取得。
社会医療法人財団白十字会 白十字病院、福岡市内の専門学校の勤務を経て、医療法人八女発心会 専門学校久留米リハビリテーション学院の教務部長に就任。

主な経歴・資格 理学療法士免許
福岡大学スポーツ健康科学研究科
スポーツ健康科学専攻 博士課程前期(スポーツ健康科学修士)
所属 医療法人八女発心会 専門学校 久留米リハビリテーション学院
住所 〒834-0102
福岡県八女郡広川町大字水原1541
WEBサイト https://kurumereha.ac.jp
連絡先 0943(32)7700

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